「ん……っ」
 抑えようとしても、声が漏れてしまう。とても自分のものとは思えない、甘い、声が……。
 砂月の指が身体のあり得ない場所を探っている。
「んあっ」
 じわじわと内側を、神経を、脳を侵食していく甘い痺れと熱。思考がふと途切れそうな瞬間が何度も訪れる。身を任せてしまえば、とてつもない快楽と至福を味わえる。分かっている。
「は、あっ……そこ」
 ビリリと電流が走ったように身体が跳ねて、翔は思わず砂月の手首を掴んだ。
「はあはあはあ……」
 砂月が、膝の上に載せたノートから顔を上げて翔を見る。
 その顔はいつもと変わらない。翔をこんなにも喘がせておきながら、まるで関心がないかのようだ。
 いたたまれねぇ――――。
 羞恥で顔を背けたくなるが、既に狂い掛けている脳は羞恥よりも快楽を選ぶ。
「も……俺、もっと……そこ」
「ここか」
 内側の柔らかい肉を指が力強く擦り上げた。
「んあっ! あ……そ、こ、もっと……」
 俺、何口走って……。
 かろうじて頭の片隅に残っている理性が悲鳴を上げ、大きく身をよじる。
「ああっ!」
 大きな快楽の波が襲ってきて、耐え切れずに腰を揺らめかした。逃げたいと思っているはずが、下肢は吸い付くように砂月の指を離さない。
「もっと、奥……」
 擦り付けるように腰を揺らすと、フッと笑う息遣いが降ってきた。
「無理だろ。俺の指の長さを考えろ。これ以上挿れられたこともねぇくせに」
「ん……っ。っ! うあっ、あ、あ……っ」
 激しく突き上げられて、身体がビクビクと震えた。
 気持ち、良い……。でも、もっと――――。
 砂月の言う通り、翔は彼の指以上のものを受け入れたことはない。だが、本能めいたものが告げるのだ。ぐずぐずに溶けたそこを、もっと確かなもので貫かれ激しく揺さぶられたら、今まで以上の快楽を得られると、それこそを味わいたいのだと。
「あ……」
 不意に指を引き抜かれて、翔は愕然と目を開いた。
 翔は、砂月に呆れられてもおかしくない嬌態を晒している。それは逃げ出したいくらいに恥ずかしい。だが、ここでやめられてしまったら気が狂いそうだ。
「何て顔しやがる」
 強い意志を持った瞳が細められる。綺麗なライトグリーンが蕩けたように見えるのは、そこに映る翔が蕩けているせいなのか。
 逞しい腕でぐいと抱き起こされ、砂月の膝の上に座らされた。後ろから回った手が再び緩んだ下肢に沈み込み、反対側の掌が、しっかりと勃ち上がり先走りの液で濡れた翔自身に絡み付く。
「ふあっ」
「これで我慢しろ」
「んっ……」
 前と後ろの両方に刺激を与えられ、翔は快感に震える。
「は……」
 でも、本当に欲しいのはこんなんじゃない。本当に欲しいのは――――。
「砂……つ、き。砂月――――」
 砂月が欲しい――――。



 砂月は、決して翔に触れようとしない。
 彼は言う。
 彼の唇も身体も自分のものではないからだと。
 そんな、どうあっても覆しようのない事実を。
 どうしろというのか。
 今更どうやって諦めろというのか。
 冷静に考えれば分かることだった。
 多分、熱くなった俺が、悪い――――。
To be continued