近いな。 早速先ほどの気配を感じ取って、外からは分からない程度に眉根を寄せる。 不思議なことに、先ほどまでの隠れようという意志が消えている。 何だ? 仲間とはぐれたユーリを獲物と捉えたのか。傷付いていると受け取って、隠れる必要すらないと思ったのか。だが、それにしては敵意を感じないのがおかしい。 油断させようとでもいうのか? 魔物にそんな知恵があるなんて、聞いたことないぞ。じゃあ、人か? いずれにせよ、相手が何ものか分からなければ手の打ちようがない。 引っ掛けてやるか。 「ん……」 ユーリはまるで寝返りを打つように身体の位置を変えると、無防備なポーズを取った。そのままじっとしていると、気配が近付いてくる。 ユーリが眠っていると思い込んでいるのか、彼は大胆だ。気配どころか、足音さえ隠さない。 ますます分かんねえな。 ユーリのことを狙っているのならば、例え眠っているのだと思い込んでいたとしても、普通は気付かれないようにするものだ。 薄目を開きたいのを懸命に堪えて、彼が咄嗟には隠れられない位置まで出てくるのを待つ。 もう少し――――。今だ! ユーリはぱっと目を開け、傍らの剣を取ろうとしたまま固まった。 「フレンッ?」 だからか。 今までの腑に落ちない現象が、フレンの出現で綺麗に片付いた。だが、同時に新たな巨大な疑問が湧く。 「本物?」 「ヒドイな。ユーリには本当に僕が分からないのかい?」 「分かるけど。お前……騎士団はどうした。団服は? 何でそんな旅人みたいな格好でこんなところをウロ付いている?」 ユーリの質問責めに臆することもなく、フレンにしか見えない私服の男がユーリの肩に手を掛ける。 「ん……」 キス。啄ばむように何度もフレンの唇が触れては離れた。たまに上唇を唇で挟まれたり、軽く吸われたり、それが下唇だったりするのがくすぐったく感じられる。 「ユーリ」 強く肩を抱かれる。背中に腕を回してこないのは、つまりはユーリの怪我を気にしてくれている証だろう。 「会いたかった」 「別々に旅してる割には会ってるじゃねえか」 「騎士団のフレンでなく、ただのフレンとして君と一緒に過ごしたかった、ずっと」 熱っぽい囁きに頬が熱くなった。頬だけではなく、全身の体温が少しずつ上がってくる。 フレンの瞳が心持ち細くなった。きっと熱く感じられる頬が、色として認識できるまでに達しているのだろう。 「君はどうだった? 僕に会いたくなかった?」 「聞くなよ。……そんなこと」 耐え切れずにユーリが下を向くと、フレンから笑う息遣いが漏れた。 |