「翔ちゃん、お祝いに来たよ!」 「え?」 飛び込んできたのは全く予想もしない人物だ。耳になじんだ声と見慣れた顔に、翔は驚いて飛び起きる。 「薫! お祝いって、お前も誕生日じゃねーか」 「ふふ、おめでとう! 翔ちゃん!」 「お前もな」 「お客様にぴ〜ったりなおいしいお菓子があるんでした。ちょっと待っててくださいねぇ」 歌い出しそうな口調に軽やかな足取りでお茶の準備に向かう那月の背に、翔は慌てて呼び掛ける。 「那月……お茶、だけで良い。菓子は薫が……」 「薫君が? うわぁ、嬉しいなぁ」 「え? 僕お菓子は……」 「しっ、死にたくなければ黙ってろ」 「死にたくなければって大げさな」 「大げさじゃねーんだよ、困ったことに」 目を丸くする薫に那月の菓子がどんなに恐ろしいものか説明するが、これは言葉で伝えられるものではないだろう。正直、那月以外に食べ物を凶器に変えられる者がいるとは思えない。薫もくすくすと笑うばかりだ。 「四ノ宮さんはまるでびっくり箱のような人だね。翔ちゃん毎日楽しそうで良いなあ」 「バカ。そんな呑気なもんじゃないぞ。本当に危険なんだからな」 「砂月、放せっ」 「問題ねぇだろ。それともずっと黙っておくつもりだったのか」 「それは……違うけど」 砂月とのことは真剣に考えている。誰も彼もに言って良い話ではないが、薫は翔の双子の弟だ。いつか話さなければならないとは思っていた。だが、こんな唐突にではない。 「翔ちゃん、本当なのっ?」 薫の怒りに満ちた瞳が翔に移る。 「付き合ってるかってこと? それは……そういうことに、なるな」 「翔ちゃんがここでがんばるって言ったのは、こんなことするためなの?」 「んなわけ……ねぇ」 否定しても、翔は砂月の腕の中だ。顔を上気させ瞳を潤ませ、まるで説得力がない。せめて砂月が解放してくれればと思うが、彼にそのつもりはない。それどころか――――。 「そんなものバレなきゃ良いんだよ。女と違って、一晩過ごしても騒がれることもねぇし孕むわけでもねぇ。それこそ最中に踏み込まれでもしない限り分んねぇよ」 「四ノ宮――――いや、砂月さん、あなたもあなただ。それでも翔ちゃんのこと本当に好きなの? 恋人なら、翔ちゃんのこと一番に考えてよ。僕の方がずっと翔ちゃんのこと――――」 感情が昂ぶったのか声が途中で止まり、薫が身を翻した。 「薫!」 けたたましい音がして扉が閉まる。同時に砂月の腕がゆるんで翔は身体を反転させると、砂月に殴りかかった。 「くっ」 拳が砂月に届く前に受け止められ、その手をほどくこともできずに、奥歯を噛みしめる。 「くそっ。何であんなこと言うんだよ!」 「あいつの目を見たか? お前を独占したいと言っていた。それは許さない」 「はあっ? 弟だぜ? しかも俺と同じ顔した」 「お前は既に禁忌を破っている。弟と寝たって不思議じゃない」 「なっ」 翔ははっしと砂月を睨み付けた。怒りで身体が震えてくる。 「お前、今の本気で言ってるんだったら、俺にも考えがある」 |