「お前が探していたのは……リン、なのか?」 掠れた声で問うアキラから視線を外し、シキがリンに向き直る。 「お前は見ていろ」 「駄目だ! リンに手を出すなっ!」 思わずシキの肩に手を伸ばすと、、乱暴に押し退けられた。 探していたのは、本当にリンなのか? どうしてだ? 探し当ててどうするつもりなんだ? 疑問が次々と湧くが、シキは質問を許さない。だが、先ほどと違って答えが出るまで待っては取り返しの付かなくなる可能性もある。 どうする? シキのスピードは今や異常だ。アキラはリンの実力を知らないが、その力がどうであれ相手に想定した以上の力があれば、危険率が跳ね上がる。勿論、リンはシキがNicoleの保菌者になったことを知らない。 低い体勢で構えていたリンが、地面を蹴った。 「駄目だ! リンっ!」 シキの身体がすうっと沈んだ。 ……動く。 そのスピードは、比喩でなく何が起こったのか見ることもできないレベルに達している。もう一刻の猶予もなかった。それこそ、彼の背中に隙を見出す暇も、刀を抜く暇すらも。 「止めろっ!」 アキラは、鞘に収めたままの日本刀でシキの背中を横薙ぎにした。 憤ったアキラを、シキは正面から捉えた。 「貴様にも躾が必要だな」 「……」 剣呑な雰囲気を感じて、アキラは後ずさるがシキの手が伸びる方が早かった。しっかりと腕を掴まれ引かれると、そうはさせまいと抵抗した分勢い良く彼の方へと進んでしまう。だが、シキはアキラを受け止めようとはせず、そのままベッドの方へと背中を突いた。 「……っ」 アキラはベッドに膝がぶつかり、バランスを崩して手を突いた。すぐに起き上がろうとするが、シキに真後ろに立たれて振り返る。 「ベッドに上がって、這い蹲れ」 「……」 シキの言うことは絶対だ。アキラが何と言おうと結局そうさせられる。抵抗は意味がない。だが、言われてできることとできないことが存在する。 アキラがキッと睨み返すと、それを待っていたかのようにシキがニッと唇の端を歪めてアキラの太股の付け根を蹴り上げた。その尋常でない力は決して小柄ではないアキラの身体を軽く浮かせる。 「っ!」 アキラはベッドの上に転がるや否や、起き上がって反対側に逃げようとした。だが、後ろ手をむんずと掴まれベッドの中央に戻される。 「嫌、だ」 「いつから聞き訳が悪くなった」 「……っ」 白い顔を近付けてニッと笑むシキから、アキラは顔を背けた。 リンはシキを見て顔を歪ませたが動かなかった。間近まで迫った彼を見上げて、きつく唇を噛み締める。 「何か言いたそうだな」 嘲りを込めた問いに、漸く引き結んだ唇を解く。 「俺に……触んな」 「だったら、自分から離れればどうだ?」 「……っ」 言葉を詰まらせるリンを、シキがフッと笑った。 「できないことを言うな」 差し出された手をリンは払えない。されるがままに上を向き、シキの唇を受け入れる。 シキの唾液さえリンは抗いきれない芳香を嗅ぐ。甘い香りに彼の唇を貪る。 「ん……ふ」 「言っていることと態度がバラバラだな」 「……く」 シキの手がリンの身体のラインを辿った。それだけでリンは身体を大きく震わせる。 「あ……」 「どうした」 「……」 「欲しいのではないのか?」 シキの手はリン自身には触れず、後ろを探った。 「は……」 ゆるゆるとくすぐるように撫でてそれ以上は入れようとしない。じきにリンが我慢し切れず腰を揺らし始める。シキが声もなく笑い、指の先を少しだけ内側に忍ばせる。 「んっ」 「どうした?」 「お、前……っ」 ギラリとリンがシキを睨んだ。だが、ゆっくりと挿し込まれていく指の感触に、瞳を閉じ歯を食い縛る。 「んん……っ」 「良い声だ。欲しいのか?」 「あ……っ」 「お前が欲しいのはこれではないだろう?」 「あ、……んっ」 シキの手の動きに合せて、リンの声が高くなり身体が艶かしくうねった。彼に慣らされた身体は、指の物足りなさが切なくて堪らないだろう。 リンは暫く悶えながらも耐えていたが、やがてシキに縋るようにしてか細い声で訴える。 「……て」 シキが満足げな笑みを浮かべてリンを見下ろす。 「もう一度言ってみろ」 「挿れ……て」 アキラは何も言わずに、シキから受け取った小瓶をリンの前に出した。 「これは……ライン?」 クンと鼻を寄せ、リンが不思議そうにアキラを見る。 「そうだ。純度は五パーセント。微々たるものだが、お前が街で探してくるラインよりは良い」 「うん」 リンは小瓶をポケットの中にしまうと、もう一度アキラに向き直った。 「俺が、もしもアイツを倒すことができたら……」 「……」 「その時はさ、アキラの血ちょうだい。生きるか死ぬか賭けてみたい。もしも……」 言い掛けて、リンは言葉を飲み込んだ。 生きることができたなら、リンはきっと新たな一歩を踏み出したいと思っている。きっと、シキからも仲間からも解放されて、自分の道を歩み出せるだろう。 「ああ」 アキラが頷くと、リンはほっとしたように笑った。 |