やり直したい。
 こんなのは嫌だ。
 嫌だ、嫌だ、嫌だ!
 もう一度……。今度こそうまくやるから、もう一度。

 やり直したい――――!


『あれ? 兄貴、どっか行くの?』
『……』
 シキはリンを一瞥したが、特に答えることなく部屋の外に出ていった。
『ん、行ってらっしゃい……』
 リンはそれ以上問うことなく、瞳を閉じるとまた眠ってしまった。
「以来、帰って来なかったんだよねー」


「もうちょっと待ってたら、帰ってきてくれたんだったり」
「誰にも、一つや二つ、そう思うことがあるよな」
 トモユキが吐き捨てるように言って、リンは少し驚いた。
「俺は……少し淋しいな」
「ん?」
「お前のお兄さんが出て行かなかったり、戻ってきてたりしていたら、お前は今ここにはいないだろ?」
 確かに、リンはシキと離れなければ、家を出ていない。ということは、カズイを始めペスカ・コシカの面々とは出会わなかったことになる。
「ヘッドがいないと……困る?」
「ヘッドかどうかは問題じゃない。お前と会えなかったというのが俺には淋しい」
「カズイ……」
「俺だけじゃない。トモユキも、他のヤツらだってそうだと思うぞ」
 嬉しい言葉に――――いや、嬉しい言葉のはずが胸がざわざわとした。
 その方が良かった?
「リン?」
 あれ?
「そういう決定的なものだと、いろいろ考えてしまうものだよな」
「ああ」
「だが、俺は今の俺で後悔していないかな」
「俺も!」
 即座に答えつつも胸が締め付けられるような気がするのは、ここにシキがいてくれたらと思わずにいられないからだろうか。
「兄貴……どうしてんのかなあ」
 再びぽつりと呟いたリンの頭を、カズイがポンと大きな掌を乗せて撫でた。


「リン、大丈夫か」
「あ……」
 リンは、とっさに目の前の男を突き飛ばそうとした。だが、寸前で彼の顔を認識してやめる。
「……俺」
 目の前ではトシマで知り合った、アキラという少年が、分かり辛い表情ながら、心配げにリンを覗き込んでいる。
 今は、いつだっけ。アキラが俺の面倒見てくれてるってことは――――。
 目の前の事象を確認し、混乱する記憶を急いで掻き回す。
 目が覚めた時はいつもそうだ。特に今のように、失神した状態からの目覚めの時は本気で状況が掴めなくなる。
 どこかの部屋だ。アキラの側に、いつも一緒にいる幼なじみのケイスケがいない。
 ってことは、ケイスケがいなくなった後? アキラの憔悴っぷりだと、二、三日経ってる?
「映画館……」
「? 悪かったな。本当は行きたくなかったんだろ」
 眉を顰めたアキラに、リンはクスと笑ってみせた。
 ああ、トモユキに会った後か。
「別に。手掛かりが掴めれば良かったんだけど」
 アキラと劇場に行った日に、シキと遭遇するのは想定内だ。むしろ、数少ないそのチャンスを狙ってのことだった。
 でも、さ。
 リンの腕ではシキは殺せない。
 ついでに言ってしまえば、今更シキを殺せたところで何も変わらない。
 でも、さ。
「やんなきゃいけない時があるもんだよねー。こう見えて、俺も男の子だからさ」
To be continued