「よお! 盛り上がってるか?」 「見りゃ分かるだろ。お陰さまで盛り上がってるよ……けど、今一気に盛り下がったな」 リンの剣呑な視線を受けても、トモユキは動じない。 「なら、ちょうど良い。顔貸せよ」 「何だよ」 立っているトモユキに上から腕を引っ張られると、小柄な身体が不恰好に浮いて、リンは眉間の皺を深くした。だが、またしてもトモユキは無視だ。 「ココではちょっと話せないな。分かるだろ」 「分かるかよ。……オイッ!」 無理やり立たせようとぐいぐいと引っ張られ、リンはますます不機嫌になって、完全に尻が浮いてしまっても自分で立つ素振りを見せなかった。すると、するりと腰にトモユキの腕が巻き付いてくる。 「! テメー!」 今度こそリンの身体はふわりと浮いた。まるで抱き寄せられるように……トモユキは元からそのつもりだろう……トモユキの腕の中に納まる。リンは自分の両足でしっかりと大地を踏むと、憤慨して彼の胸を突いた。 「調子に乗るんじゃねー!」 「てっ」 トモユキは痛がる素振りは見せるが、腕の力が弱くなる様子はない。 リンは、ペスカ・コシカでナンバー1の実力の持ち主だ。だが、歳が若いこともあって、他のメンバーと比べると小柄で手足も細い。力と力の勝負となると分が悪いのだ。 トモユキの腕を退けることができずに、今にも噛み付きそうな目で睨み付ける。 「行きゃあ良いんだろ。放せよ。自分で歩ける」 リンが低く言い放つと、トモユキがおどけたように笑って、パッと手を放した。 「行きますか」 「フン」 先に立って歩き出すトモユキを、リンが肩を怒らせて追う。 これも、ペスカ・コシカのメンバーにとっては見慣れた光景だった。いや、逆の方が馴染んでいるだろうか。リンが叫んだ時同様、一瞬訪れた静けさと彼ら二人に集まった視線は、数秒後には元に戻った。たった一つ、僅かに眉を顰めたカズイのものを除いて。 「挿れるぜ」 突然耳に入った声に、リンは強い違和を覚えた。はっと開いた瞳に映ったオレンジ色の髪に、目の前の少年がカズイでないことに、衝撃を覚えた。直後に、驚きが深い罪悪感に塗り替えられる。 「う……あっ」 優しくしろと要求されて、追い詰められた状態であろうに、トモユキにしては精一杯に自分を抑えて、ゆっくりと内側に入り込んできた。 多分、違う。 カズイとは経験がない。だから分かるはずがなく、勿論比べられるはずもないはずが、リンは二人を比べた。 きっと……もっと。 滑り込んでくる硬いものに悦びを覚えながら、違うものを求める自分に、リンはきゅっと細い眉を寄せた。 カズイの視線を追って、リンは空を見上げる。目立つ星は三つ。その中にリンが見上げていた一際明るい星も入っている。だが、きっとカズイの見ている星は違うだろう。もしかすると、リンが挙げた三つの星のどれでもないかもしれない。そう思ってしまうくらい、リンとカズイは見るものが違う。 「カズイ、どの星見てるの?」 「あの明るい星の横に重なるように見える星。分かるかい?」 「どれ? あの目立たない暗いヤツ? ちょっと青みがかった」 言った瞬間にクスと笑う声を聞いて、リンはカズイを見る。 「そうだよ。あの目立たない暗いヤツ。すぐ近くにあんなに明るい星があるのに、ちゃんと光が俺たちまで届いていることに感心しないか? ……もっと空が澄んでいたら、あまり珍しいことでもないのかもしれないけれど」 ほら、違った。 こんなに違うカズイだから、本来なら近付かぬが吉のはずだったリンに歩み寄ってきてくれたのだ。そして、心の中にするりと入り込んできた。 「カズイって……やっぱりスゴイな」 「? 何の話だい?」 「んー、色々!」 彼との違いを思い知る度に、リンは彼に感嘆し、自分にとって大切な人なのだということを噛み締める。そのはずだった。そのはずだったのに……。 急にすぐ横にある身体に触れたくなって、その温もりを肌で感じたくなって、リンはきゅっと拳を握り締めた。 |