「乾杯ー!」
 毎日見ている店内だが、まだ閉店時間にはほど遠いというのに、親しい者だけしかいないというのは、新鮮だ。しかも、普段はこの店を切り盛りしているリン自身も、客の一員になって席に着いている。
 今日は、以前トシマで共に過ごしたことのある仲間たちが集っている。内戦勃発時、リンは諸事情のために彼らを見失ってしまった。互いに顔と名前くらいしか分からず、脱出後落ち合う場所も決めていなかったから、必ずどこかで生きているとは信じていても、正直再会は諦めていた。今日こうして皆で顔を合わせられたのは、仲間の一人の源泉が、情報屋の手腕を発揮して、皆を見付け出してくれたからだ。



「――――チョコとかケーキとか」
「ケーっ! ゴホッ、ゴホ……ッ」
 源泉が凄まじい勢いで咽て、それまで黙って食事をしていたシキの紅い瞳がじろりと動いた。
「!」
 途端に、店内に緊張が張り詰め、体感温度が一気に五度は下がった。ケイスケは跳び上がって椅子の足を鳴らし、アキラは身構え、源泉もポーズこそ変わっていないが鋭い視線をシキに向ける。リンですら、心持ち頬を硬くしてシキの様子を窺った。
「俺はチョコレートで構わん」
「!」
 シキが唇を開いた瞬間の緊張の高まりは、痛いほどだった。だが、彼の言葉を聞いて、今度は緊張とは真逆の衝撃で店内が凝固する。唯一、リンだけが破顔してシキの首に跳び付いた。
「そうだよね! 兄貴、大好きっ」
 数年前と違い、リンはシキとほとんど同じくらいまで身長が伸びている。ほっそりとしていた身体つきも、今やがっしりとした逞しいものに変わった。そんなリンが跳び付いたにもかからわず、シキは欠片もバランスを崩さない。ただ邪魔そうな顔をして、リンの肩を無造作に掴む。
「どうせ腹に入れば一緒だろう」
 リンはシキにしっかりと抱き付いていたのだが、あっさりとシキに引き剥がされて、不満げに唇を尖らせる。リンはスキンシップを好むが、シキはさほど好まないため、今のように邪険にされることにはよくあるのだ。
 ちぇー。
 大人しく席に戻ると、リンとシキとを入ったり来たりしている、三対の視線と出会った。
「ありかよ。こんなシキ……」
「……」
 トシマにいた頃のシキだけしか知らなければ、当然の反応だ。リンに言わせれば、シキに特に変化はない。ただ、あの頃は出る機会のなかった彼の色々な面を、リンが引き出しただけだ。彼を知る人を驚かせるほどに、リンは嬉しくなった。
To be continued