「リンは強くなりたいんだったか」 「ん? うん。そんなの皆もだろ?」 「だろうな」 勢いを付けて身を起こすと、頬杖を突いて黙っているカズイの横顔を見上げた。 カズイはリンをはぐらかそうとして屋上に連れてきたわけではなかったのだ。むしろ落ちついて話すためだと気付いて、リンはますますカズイを好きになる。 「カズイは強くなりたくないの?」 「そうだな、強さには憧れる」 「でしょ?」 カズイの回答が期待通りで、リンは思わず顔を綻ばせた。 カズイほど強くてBl@sterにも参加していて、強さに焦がれないと言われたら、リンはますますカズイの思考が理解できなくなってしまう。今でさえ、彼との間にある思考や感性の違いにもどかしさを覚えているのだ。これ以上は一ミリだって違いを広げたくない。 「戦うのは楽しいよ。皆と一緒ならもっと……ね」 また話が平行線になりそうな予感があって、唇の動きが勝手に遅くなる。カズイがそんなリンの顔を覗き込んで、ふっと笑った。 「同じだよ、リン。俺も戦うスリルを楽しんでいるし、皆と一緒なら更に楽しい」 「じゃあ」 パッと顔を輝かせたリンに、カズイは静かに首を振ってみせた。 「俺はBl@sterだけで満足している」 「Bl@sterったって、参加し始めたの最近じゃん。その前は……」 「今は違うだろ」 Bl@sterという選択肢を選べなかった頃と今は違う。カズイはそう言いたいのだろうが、リンにはよく分からない。 「うん、Bl@sterも選べるようになったけどさ……、Bl@sterでもBl@ster以外でも一緒じゃない?」 「そうか?」 「んー、ルールがあるとかないとか、武器使用不可とかOKとか、賞金もらえるとかもらえないとか、ちょっとは違うけど」 「そうだな」 「カズイは違うの?」 カズイの見ているものが何なのか見定めようと、リンはじっと瞳を凝らした。 「オイ」 昼間はまだしも治安が整った街も、夜は危険に満ち満ちている。声を掛けてくるのは喧嘩を売りたくて仕方ない輩か、リンをBl@ster優勝チームペスカ・コシカのヘッド、コートと知って挑もうという者たちか、スカウトくらいだ。だが、今の声は、喧嘩にしては抑揚がなく、スカウトにしては無視できない威圧感があった。 「何だよ」 いかにも面倒くさげに振り返ったリンは、そこに見付けた顔に息を呑んだ。 そんな、まさか――。 彼、は日本中を探してもまず似た顔を見付るのが難しい。芸術家が一ミリの狂いもなく創り上げたと言って過言でない美しく整った顔と、一度見たら脳裏に焼き付いて離れない鮮やかな赤い瞳、例え外見が似通った者が存在したとして、絶対に醸し出すことのできない絶対的な存在感。更にリンの中での彼は特別だった。 何故声を聞いた瞬間に欠片も彼を思い浮かべられなかったのか。答えは簡単だ。こんなところに彼がいるとは思わなかったし、たとえ彼がリンを見付けたところで声を掛けてくるとはもっと思っていなかった。今彼を目の前にしていても、半ば人違いか夢かと思っている。 「兄……貴?」 「久しぶりだな」 彼、が近付いてくる。その姿も動作も響いてきた声も見間違えようはずもなく、シキそのものだ。瞬きもできないでいるリンの傍へ歩み寄って、うっすらと口元に笑みを浮かべた。 シキはリンの小さな身体を包むようにして、同じ窓から星を見上げていた、はずだった。だが、気付けば手は窓の桟を離れリンの腹を探っている。悩ましい動きに、次第にリンは息が上がってきた。 「ん……まさかと思うけど、もしかしてさー」 昨晩あれだけ抱いて、今またしたくなったのかとシキの顔を見上げる。灯りを消した部屋で白く浮かぶシキの顔はやけに艶かしく見えた。 「あ、ホントに……」 手を止めさせようと腕を絡めると、掌がぐっと下がりリンに指が巻き付く。 「んっ」 悩ましく蠢く指先に、リンはすぐに根を上げる。そもそも抱かれることに抵抗を覚えていなかった。 「あ、あふっ」 背を逸らして、シキの胸に押し付ける。ズボンの前を開けられ、下着ごと引き下ろされた。前に絡み付く指の横を通って、密かに期待に震える場所を無造作に探られる。 「んっ」 昨夜と違い、今度は少し押されるだけで簡単に指先が中に入った。昨夜無理を強いられたそこは傷付き敏感になっている。指が滑っていくのに合わせビリビリと電流を流されたような痛みが走り、熱と痛みが後まで響く。 「挿れるぞ」 「ん……」 指が乱暴に引き抜かれて、腰を後ろに引かれた。リンはされるがままに桟に手を突いて身体を支えた。 |