夢かと思ったんだ。 大好きな仲間たちは死んでしまった。もう二度と会えない。それなのに、仲間たちの中でもリンが最も心を開いていたカズイの姿を見付けた。 勿論、彼はカズイではなく、アキラという別の人だった。だが、彼が寄越したのだと思った。ほんのひと時の甘い夢を見せるためか、それとも急げということなのか。 ゴメン――――。駄目、なんだ。 彼らの敵を取ることを諦めるつもりは毛頭ない。だが、あからさまな力の差は、そう簡単に覆せない。 苦――――しい。 この苦しみは、いつまで続くのか。 「アキ、ラ――――ごめ……ん……い」 重くて自由に動かない手を、必死に彼の方へと伸ばす。 今更、彼が手を取ってくれることはないだろう。邪険に振り払われるかもしれない。 案の定、彼は動かなかった。ただじっとリンを見詰めている。恐らく恨みを込めた瞳で、もしくは冷たい突き離す瞳で。 「ごめんな――――、っ!」 急に手首に何かが巻き付いた。 許すとは程遠い強引さで引き寄せられ、身体を深々と抉られた。半ば分かっていたとはいえ、拒絶されたことに打ちのめされる中、追い打ちを掛けるように激しく突き上げられ揺さぶられる。 熱、い。裂け……る。 焼き殺されるのか、それとも内側から裂かれるのか、どちらが先なのか、いずれにせよもう長くはないと思えた。 「ごめん……な、さい」 どんなに許しを乞うても、それは怒りを煽るだけなのか、身体を衝撃が突き抜けて世界が明滅する。暗くなっていく思考の中で、リンはひたすらに許しを乞うた。 欲しい。 どっちを? カズイを? それともアキラ? アキラの頭を両手でかき抱く。とても魅惑的に映る唇に、自分のそれを押し付ける。 ビクンとアキラの身体が跳ねた。唇の輪郭を舌でなぞり、僅かに開いたのを見逃さずに中に分け入る。口腔を探りアキラの舌を見付けると、迷わず絡ませた。 「ふっ……」 「ん」 濡れた音が内と外から響いてくる。蠢く温かな感触が蕩けるほど心地好い。 「アキ……ラ」 一度唇を離して、今度はもっと深く彼の唇を味わおうと、角度を変えて口付ける。触れたと思った瞬間、リンは両肩を持って引き剥がされた。 「アキラ?」 アキラは肩で息を吐いて、潤んだ瞳でリンを見ている。 「誰かに抱かれたヤツになんか、触れられたくねえ?」 「違う」 「?」 アキラの反応は、いつも予想外だ。彼は確かにリンに欲情しているのに、拒絶した。そこに、他に理由があるだろうか。 「じゃあ――――。っ?」 突然、アキラがリンを力強く抱き締めた。思わず呻いてしまったのは、傷に響いたからだ。 リンは、抱き返そうとした腕を上げて良いものか、迷ったが、アキラの腕の力が一向に弛まないことに安心して、そろりと腕を回した。 「ひ、も……て。ゆる――――」 ふと、嵐が止んだ。うっすらと瞳を開けると、間近に恐ろしく整った顔と赤い瞳に映った自身の涙に濡れた顔を見付ける。 「誰に許しを乞う? またあの男か?」 「あ、の……?」 リンに誰かを呼んだ記憶はなかった。だが、心当たりはある。この苦しみから解放されるとすれば、彼らの許しを得た時しかない。 「カズ……」 「――――アキラと言ったか」 「え?」 リンは目を見開いた。何故シキがアキラの名を知っているのか、理解できなかった。アキラは一度会ったようなことを言っていたが、名乗ったとは思えないし、それでどうしてリンと結び付いたのかも思い付けない。 「今度はそいつに乗り換えたのか? 同じ血を分けた弟がすることとは思えんな」 シキの唇が歪んだ。 「違う! アキラとはまだ――――あうっ」 リンは弾かれたように身を離そうとして、走った痛みに身を折った。 「未だに誰のものかも分からないとは――――お前の物覚えの悪さには呆れる」 「誰のもの……だって? 俺は! ひうっ」 怒りに満ちた言葉は最後まで言わせてもらえなかった。 |