床に伸ばした手が、何かに触れた。反射的に手を引っ込め顔を上げるが、すぐそばにあるそれすら全く見えない。 リンは、そろりと手を伸ばしてその形を確かめた。 革か? 形も家具にしては変わってる。丸い? それは、丸みはあるが、いびつだった。床と接触している部分は手に余る。大きさもだが、重い。奥の方が上に伸びていて、途中から素材が変わっている。 布? もしかして、これ……足? リンは、はっとなって手を離した。 人の気配はない。目を凝らしても何も見えない。だが、シキは気配を消せる。 さあっと鳥肌が立ち、寒気が走った。 「!」 両肩に何かが触れた。リンは、反射的にそれらを振り払い、跳び退ろうとしたが、肩を掴む手の力が強くて動けない。 「離せっ!」 悲鳴じみた声に、笑う息遣いが重なる。 やっぱり、いる。 この至近距離で影さえ見えないなどということがあるだろうか。いかに気配を読むのに長けていたとして、そんな闇の中でこれほど狂いなくリンを捕まえることができるのだろうか。 おかしい。 光の射さない暗い場所というのは存在する。ここがそうなのかもしれない。 赤外線スコープでも持ち込んだのか? いや、アイツはそこまで酔狂じゃない。 ――――じゃあ。 リンは、自分の目に触れた。 目を覆うものは何もない。見えているはずだ。それなのに、翳した自分の手も見えない。 肩から手が離れた。咄嗟に身を引こうとするが、しっかりと腕を回され、かえって彼の方に抱き寄せられる。 コイツ、絶対に見えてる――――! 心臓が激しく鼓動した。 |