「皆が一つになってるんだ。きっとうまく行く。行かせてみせる。――――って、終わんねえな」
 フレンはもう何人めなのかも分からなくなってしまった新たな騎士と話している。
 やっぱり無理か。
 もう一人だけ、と諦め切れない心がそう言っているが、現実問題として、彼との話が済んだところでフレンの手が空く保証はない。
 もう、帰るか?
 そう思った途端に、胸がぎゅうっと何かに圧迫されて、息苦しさに眉根を寄せた。
 今夜諦めてしまえば、明日はもっとフレンと話せる可能性が低くなる。
 このままなんて――――嫌だ。
 焦りが突き上げてきて、ユーリは食い入るようにフレンを見た。
 ゆっくり時間を取って欲しいなんて、贅沢なことは言わない。一言か二言、交わせるだけで良いのだ。
 切実な想いが込み上げてきて、ユーリは何かに突き動かされるように、壁から身を起こした。
「ワン!」
 驚いたラピードが吠えるが、音としては聞いていても、それが自分に向けられたものだと気付けない。
 フレン。
 と、今まで熱心に話していたフレンが、急に動いた。話を終え振り向いたフレンと、ユーリの視線がしっかりと出会う。



 変だな。
 フレンとユーリとは馬が合う。時間さえあれば幾らでも語り合えるし、逆に何も語らなくても何となく分かる。単に付き合いが長いからだけでなく、遠慮なくものを言い合えて、そばにいても気兼ねしない仲、のはずが、何故だか今は居心地が悪い。動悸が収まらない。
 基本的に自分の気持ちに素直なユーリは、こんな風に気持ちと行動とがちぐはぐになることはまずない。自分の中に真っ向から反する感情が二つあって、自分の気持ちが見えなくなるということもない。
 だから、だろうか。自分の中の歯車が狂うと、こんなにも落ち着かない気分になる。
「ユーリ?」
「!」
 フレンが、再び不思議そうにユーリの顔を覗き込んできた。指が額に触れて、ユーリは思わず上げそうになった声を飲み込む。痛いほどに拍っている胸を抑えながら、硬直した身体をゆっくりと動かして、慎重に彼の手首を掴む。
「熱はねえ。……つーか、お前。その手で体温が測れるわけねえだろ」
「確かに」
 フレンが手甲に包まれている自分の手を見て、照れくさげに笑った。手甲は、動作に支障がない設計となってはいるが、繊細な動きは難しいし、熱を測るのは間違いなく無理だ。
「ついクセで。額を合わせれば分かるかな」
「バカッ!」
 言葉には実体がない。それなのに、どれほどの破壊力を持っているのか。見えない衝撃に、ユーリは、今度こそ心臓が停まりそうになった。
 掴んでいた手を、いささか乱暴に払って、近付き過ぎていたフレンから離れる。
「バカ。下町育ちをナメんな。身体は相当丈夫にできてる」
「そうだったね。じゃあ――――」
 フレンが何か考えている。ユーリが変だというのが、熱でなければ何なのか、思案しているのだろう。
 ユーリは、緊張を覚えながら、じっと友の顔を見守った。
To be continued