「短かったな、俺たちの初恋」
「へ?」
 錫也が感慨深く呟くと、それまで心ここにあらずと生返事をしていた哉太が、甲高い声を上げて錫也を振り返った。
「今なんつった? ま、ま、まさか、初恋って言わなかったか?」
 まん丸に目を見開いて、あらぬ声を出した哉太に、錫也は思わず笑ってしまった。
「あいつのことだよ。好きだっただろ?」
「……!」
 哉太が息を呑んで、陸に上がった魚のように口をパクパクと開閉させた。シリアスな反応が返ってくるよう誘導したつもりが、爆弾を放り込んでしまったらしい。
 そんな哉太らしさが、からかう余裕などないほどに落ち込んでいたはずの、錫也についつい言葉を重ねさせる。
「まさか気付いてなかったとか? そこまで……じゃないよなあ?」
「違ぇよ! 誰があんなヤツをすっ、すっ、好きだったりすっかよ。あいつはなあ、あいつは……幼馴染みだろーが! そりゃ、多少は特別扱いはしたけど、それは俺たちん中であいつだけ女だったってだけ! お前だって一緒だろっ? 初恋とかそんなんじゃ絶対ねーっての!」
 期待通りの、今にも鼻先に噛み付かれそうなリアクションだ。からかい甲斐があると楽しく思うところだが、不思議と哉太の言った一言が頭に残って、錫也は真顔になった。
「俺と……一緒?」
 哉太と月子と錫也は幼馴染みだ。だから、幼馴染みというカテゴリで括ってしまえば、月子と錫也は同列だろう。分かっているのに、何故なのか「一緒」という言葉が錫也の心を惹き付ける。
「一緒だろうが。俺ら三人は幼馴染みなんだからよ」
 きゅっと締め付けられるように痛む胸に、錫也は違和を覚える。
 何だろう。
 哉太が胸を痛めていることに同情している。少しでも痛みを和らげてあげたいという思考も同じだ。だが、何かどこか違う。
 よく分からないままに、錫也は哉太の背中に手を回した。反対側の肩を取って引くと、傷心の哉太が抵抗なく身体を預けてくる。
 衣類を身に着けていると分かりにくいが、生まれつき身体が弱い哉太の身体は、骨格に対して薄くて軽い。知ってはいたが、実際に重みとして感じると違う。瞬間、またもや錫也の胸に切ないものが込み上げてきた。
 それは、これまでも哉太の身体を心配する時に感じていたものと同じで、それでいてやはり少し違う。
 あいつと俺が一緒? ということは、あいつと哉太も一緒ということ? じゃあ……。
 錫也の思考に胸が呼応する。いつもと同じはずだというのに、少し違うという違和感が、急にしっくりしたものに変わった気がした。
To be continued