「錫也、君は不誠実だよね」
「え?」
 東月錫也は、白いシーツの上でも尚映える、白く滑らかな肌を晒している土萌羊の顔を、まじまじと見返した。
 錫也は、世話好きで面倒見が良い。穏やかで人の話をよく聞き、私情に流されることなく公平な判断もできる。周囲から誠実な性格をしていると言われているし、本人もその自覚があった。
 今も、すぐにベッドから起き出せない羊の身体を綺麗に拭いてやって、喉が渇いただろうと冷たい飲み物を用意したところだ。
 羊は、フランス人の父親と日本人の母親を持つハーフで、フランス育ちだ。日本語は堪能で日本の文化にも勉強熱心だが、知識として身に付けたものと、実際のものには開きがあるのか、時々おかしな言動がある。
 ……とばかりは言えないよな。
 錫也は疑問を声には出さずに、手にしたグラスを羊に渡すべきかどうか迷った。
「それ、くれないの?」
「ああ」
 錫也を躊躇わせた当の本人は、人形のように整った顔を少し曇らせて、じっと錫也を見詰めている。ルビーを溶かしたような不思議な色の瞳でじいっと見詰められると、その気がなくとも変な気分になる。つい先ほど身体を重ねたばかりの今なら、尚更だ。
「羊、そんな目で見られると、あげるのが惜しくなってしまうんだけど」
「何で?」
「他にしたいことができてしまうだろ。というわけで、これは後で」
 離れていても見える羊の長い睫毛がパチパチと上下に動いて、綺麗な瞳が大きくなった。
「え? それはヒドイよ。僕喉が渇いた」
 遠退いたグラスに手を伸ばそうとした羊は、必然的に錫也に近付いてくる。錫也はグラスを引いたまま、反対側の腕で羊のスリムだがよく引き締まった身体を抱き留めた。



 羊の愛撫がくすぐったい以外の何ものでもなくて、錫也は込み上げてくる笑いを懸命に堪える。だが、ヒクヒクと腹筋を引き攣らせていれば、羊が気付かないはずがない。
「……っ」
「何笑ってるの?」
「ゴメン、くすぐったくて。その……もうちょっと何とかならないか?」
「くすぐったい? おかしいなあ」
 羊が顔を顰めて、宙を見詰める。
「こんな感じ?」
 再びペタペタと肌を触られて、錫也は変わらないくすぐったさに身悶えそうになった。羊のために必死に我慢するが、限界はある。
「――――っ」
「何で?」
 羊がそれこそ真剣な顔をして、錫也の髪を撫でた。
To be continued